禍話~第2夜より~
地元で有名な廃病院があった。
集団自殺や医療ミス等、何かが起きたという事実はない。
だが異様な雰囲気の廃病院だったそうだ。
不可解な点として、まず衣料器具や備品がそのまま残っていること。
倒産して廃れたのだとしたら、売れそうな物は回収するはず。医療機器は高額な物が多い。
しかしほとんどの物が手付かずで放置されている。
まるで医者や看護師が一晩で消えてしまったかのように…
そして”2階から上には誰も行けない”ということ。
床が抜けてるわけでもなく、瓦礫の山があるわけでもない。
1階の階段の踊り場あたりから雰囲気が変わるのだ。
全身に寒気がし、体が重くなり、息が苦しくなる。
まるで本能が「ここから先は行ってはいけない」と言っているかのように。
じゃあ朝や昼ならばと明るい時間に試みても同じで、踊り場から上へ向かうことは誰一人出来なかった。
根性と度胸がモノを言う、地元で有名な暴走族ですら、この廃病院だけは恐れていたという。
ある日、廃病院の取り壊しが決まった。
現場作業の男たちが大勢下見にやって来て、噂が嘘のように皆難なく2階、3階へ上っていく。
下見等の準備段階は問題なく終わり、ついに来週重機が入って解体されることになった。
「このままじゃ駄目だよなぁ?」
暴走族のリーダーである田中が、飲み会中に突然言い出した。
「おいお前ら、あの病院来週には壊される。
そしたらもう誰も2階から上に行けずに終わっちまう。
その前に俺らで2階を制覇して伝説作っちまおうぜ!
まさかこの中に根性無しはいねぇよなぁ!?」
酒の勢いもあって仲間たちも
「行っちまうか!」
「いっちょやってやりましょう!」
と大いに盛り上がった。
田中を先頭に居酒屋を飛び出し、酒が入ったままバイクに乗って、廃病院に向かった。
間近で見る廃病院は想像よりはるかにヤバい雰囲気だった。
外とは明らかに違う空気に一同は立ちすくんだが、それでも励ましあい、何とか1階の奥へと進み、階段を半分上って踊り場まで来た。
そして、全員の足が止まった。
噂に聞いていた通り、踊り場から空気が明らかに重くなっている。
息を吸うのもやっとな程の、ねっとりとした泥のような空気が漂っていた。
行こうと思えば行けるはずだ。
しかしこの空気の中に体を突っ込む気になれない。
これ以上進むと良くないことが起きる。頭の中で警笛が鳴っているのだ。
「クソが!こんくらい何てことねぇ!」
田中は持っていた缶ビールを一気飲みした。
そして缶を投げ捨てて、2階への階段を一歩ずつ昇って行った。
階段の中程まで進み、振り返った田中は、踊り場から先へ進むことの出来ない仲間達に
「そこで見とけお前ら!俺はこのまま2階の奥まで行く!!
それで伝説になるんだ!お前らは伝説の目撃者になれ!!!」
田中はそう言うと大きな声を張り上げながら、2階の奥へ走っていった。
踊り場に残ったメンバーは皆、田中の勇気に感動していた。
「行っちまった…」
「やっぱ田中さん凄いっすわ」
「これはマジで伝説になるぞ…」
そんな会話をしていると、突然全員の携帯電話が鳴った。
田中からの一斉送信メールだった。
【!!伝説達成!!】
きっと2階の最奥にたどり着いたのだろう。
皆、改めて田中を褒め称えた。
「戻ってきたら祝杯だな」なんて話していた。
しかし数十分経っても田中は戻ってこなかった。
電話をかけても出ないし、大声で呼びかけても反応はない。
田中は酔っているし、ここはメスだの何だのと危険な医療機器が手付かずで残っている廃墟だ。
転んで大ケガでもしているのかもしれない。
様子を見に行かないと、と田中と同期の2人が後輩2人を残して2階へ行くことに。
「何かあれば連絡する。頼んだぞ」
そう言い残して、警戒しながら2階の奥へと消えていった。
数十分が経った。
先輩たちは戻ってこない。
放って帰るわけにもいかない。
後輩の内の1人が2階に行くことにした。
「行ってくる…もし、俺も戻ってこなかったら他の仲間を呼んでくれ。」
そう言って足を震わせながら2階の奥へと消えていった。
そいつも戻ってこなかった。
誰一人として戻ってこない。
電話にも出ないし、誰の声も、物音もしない。
最後に残された後輩は、ここに来ていない仲間に電話を入れてから2階へ進んだ。
恐怖の中、一歩ずつ一歩ずつ奥へ進んでいくと、かすかに話し声が聞こえてきた。
最奥の部屋からだ。
良かった、皆いるんだ。
後輩はホッとして部屋に入った。
すると先輩達や同期が円になって、ボソボソと独り言を呟きながら、カシャッと携帯で円の中心にある”何か”を夢中で撮っている。
「これはマジで伝説だわ…」
「田中さん…俺にはとても出来ないっすよ…すげぇ…」
「撮っておかないと…もうこんな瞬間には出会えねぇ…」
一体何を撮ってるんだ?
後輩は皆の肩ごしに円の中心を見た。
彼らの真ん中には、首を吊った田中がいた。
「な、な、、何してるんですか!!!!!!!!!」
後輩が叫ぶと、他の3人はハッと正気に戻ったように
「うわ!何だこれ!」
「おい田中!しっかりしろ!!」
「何か切る物ないか!?!?」
と田中の救護にあたった。
救急車が到着し田中は病院へと運ばれたが、彼はとっくに死んでいた。
ベルトを使って首を吊ったらしい。
田中は突発的な自殺、ということで片づけられた。
廃病院はその影響で工期が延びたものの無事に取り壊され、跡形もなくなった。
地元で田中の奇妙な死は語り継がれた。
田中は伝説になった。
著作権フリーの怖い話をするツイキャス、「禍話」シリーズの過去放送話を編集・再構成しています。
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