同居人

禍話~第2夜より~

俺がまだ新入社員の頃。
お世話になってる上司の加藤さんが、飲み会の席で
「僕の家、お化け出るんだよ。」
と言った。

女子社員たちが
「えー、こわーい」
等と盛り上がっている中で、1人顔を引きつらせている先輩がいた。

先輩の横に座り、話を聞いてみると
「あの話、マジで洒落にならないんだって。
 お前加藤さんに気に入られてるっぽいから忠告しとく。
 もし今後、さし飲みに誘われても行かない方がいいぞ。
 とにかく…加藤さんの家には絶対行くな」
と言った。

加藤さんは人望があるし仕事も出来る人だから、先輩は俺に嫉妬でもしてんのかな、と思った。
「分かりました、気を付けますね」
と返事をしたが、俺は先輩を内心小馬鹿にしていた。

1か月ほど経ったある日、加藤さんからさし飲みに誘われた。
ふと先輩の顔がよぎったが、他でもない加藤さんからの誘いだ、と快諾した。

その日の夜、居酒屋で加藤さんと俺は大いに盛り上がった。
会社の愚痴から始まり、恋愛話、加藤さんの意外なプライベート話など、とにかく楽しくて、1度も会話が途切れることがないまま、居酒屋は閉店の時刻となった。

「いや~今日は誘っていただいて、本当にありがとうございました。
 絶対に近々また飲みましょう。」
とお礼を述べると、加藤さんは
「本当に楽しかったね。ありがとう。
 でもまだまだ話したりないし、良かったら僕の家で飲み直さない?」
と誘ってきた。

酔った頭で先輩の忠告を思い出す。
「家には絶対行くな」
(いやいや、まさか。お化けとか…ないない)

「えっ、良いんですか?では遠慮なくお邪魔しちゃいます!」
コンビニで酒を買って加藤さんの家へ向かった。

加藤さんは綺麗な2LDKのマンションに一人暮らしをしていた。
2人はまた乾杯をし、テレビでお笑い番組を見ながら会話に花を咲かせた。

発泡酒を飲みすぎたのか、急に尿意を催したので加藤さんにことわってトイレに行った。
用を済ませている間、リビングから加藤さんの笑い声が聞こえる。

芸人が面白いネタでもやってんのかな?と思ったその時、
浴室の方からギシッ、ギシッと足音が聞こえた。

その足音は段々と近づいてきて、トイレの前で止まった。

(は?え?誰?加藤さんって一人暮らしだよな?)
俺は混乱しつつも、気づかれたらヤバい!と直感し、息を殺した。
するとリビングから聞こえていた加藤さんの笑い声も何故かピタリと止んだ。

時間にして30秒くらいだろうか。
俺にはとてつもなく長く感じたが、足音はギシッ、ギシッとリビングの方へ向かっていった。

俺は恐る恐るトイレを出て、リビングの扉の前に立った。
すると、中からぼそぼそと話し声が聞こえる。
(加藤さん、誰と話してるんだよ…勘弁してくれ…)

意を決してリビングの扉を開けた。
何事もなかったかのように。

加藤さんは
「おー、遅かったじゃん」
と普通に話しかけてきてくれた。

(あぁ、良かった。俺の気のせいか…?)
「ちょっと飲みすぎたのかもしれませんね。
 お待たせしてすみませ…」
加藤さんの向いに腰かけた俺は固まった。

加藤さんの顔がおかしい。
変顔してるとかじゃなくて、何かこう悪意のある顔というか。
目だけ笑ってて、俺を観察するようにじーっと見てるんだ。

俺は途端に気味が悪くなって
「あ、ちょっと飲みすぎて具合が悪くなってきたので帰ります…」
と言って身支度を始めた。

すると加藤さんはこちらを凝視したまま
「君の使う路線、人身事故で止まってるみたいよ。
 調子悪いんでしょ?
 今日は泊まっていったら?」
と提案してきた。

冗談じゃない、と思いながらアプリで調べたら確かに電車は止まっていた。
「あ…ではすみません。お世話になります…」

(絶対に寝ちゃダメだ!)
俺はお酒を飲むのをやめ、普段通りに戻った加藤さんの話に相槌を打ちながら、つらい時間が過ぎるのを待った。

ー23時過ぎ。
再び尿意を催しトイレを借りた。

するとまたリビングから、ぼそぼそと話し声が聞こえる。
俺は勇気を出してリビングの扉に耳をあて、会話を聞いた。

「ねぇねぇ、あの人ぜーったい私のこと見えてるって~」
「えぇ?見えてないよ。霊感なんてないやつだし」
「本当~?さっき目が合った気がしたのよね~」
「いやいや、まだ見えてないって。あんな近くにいて気づいてないんだから」

親密なカップルが談笑してるかのような感じだった。
俺はもう限界を迎えた。
「加藤さん!電車動き出したみたいなんで俺行きます!
 お邪魔しました!!!」
と言って転がるように部屋を飛び出した。

マンションから200mほど走った所でやっと安堵し、一息ついた。
息を整えていると、首の後ろにチリチリとした視線を感じる。
振り返るとベランダから加藤さんが、あの嫌な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。

俺が振り返ったことに気付いた加藤さんは、こちらに向かってヒラヒラと手を振った。
口元は誰かと話しているかのように動いている。
俺は駅まで再びダッシュした。

それ以降、俺は加藤さんと距離を置いた。
飲み会に誘われることが何度かあったが、適当な理由をつけて全て断った。

しばらくして俺は転職し、加藤さんとは縁が切れた。

さらに数年後、結婚して子供が生まれ、平和な日常に幸せを感じていた時。
嫁が趣味のオカルト誌を買ってきた。
特に興味も無かったが、暇だった俺はパラパラと流し見していると
ーあるページで手が止まった。

〇〇町のマンションのベランダから、カップルの霊が通行人を見ている、とのことだった。
記事の写真を見ると、加藤さんのマンションだった。

加藤さんが亡くなったかどうかは知らない。
知りたくもない。
今でも2人はあのベランダから俺を探してるんじゃないか。

俺は〇〇町には二度と足を踏み入れない。

著作権フリーの怖い話をするツイキャス、「禍話」シリーズの過去放送話を編集・再構成しています。

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