シン・禍話 第五十四夜 2022年4月9日放送
北九州で自営業を営んでいる生真面目で義理堅いAさんは始めにこう言った。
「関わっている人の名前は一つも出せません。それでも良ければお話します。」
Aさんが中学生の時、クラスでいじめが行われいた。
いじめられていたのはBという男の子。
「いじめのきっかけはBの名前でした。
実名は言えませんが、ナイトとかアクアみたいな英語を無理やり漢字で書いたような名前です。」
いじめは日に日に酷くなっていき、Aさんは何度も止めに入ろうと思ったそうだが、下手に関わって自分までいじめられたら…という恐怖心に負け”最期まで”助ける事が出来なかった。
“最期まで”というのはご想像の通り。Bは自殺してしまったのだ。
「マンションの屋上から飛び降りたんです。もちろん即死でした。」
しかし、Bの自殺は”事故”として処理されてしまった。
遺書もなく、学校もいじめはなかったと発表した。
あろうことかBの家族も死の原因を追究しなかったのだ。
「おそらくBは家庭環境も悪かったのだと思います。
虐待とまではいかなくても、多分ネグレクト…育児放棄されていたんでしょう。
まぁ、あんなキラキラネームをつけている時点で馬鹿親って事が分かりますよね。」
Aさんは何も出来なかった自分とBの両親を責めている様に冷たい口調で言い放った。
「さっきも言いましたが、Bは事故死という事になりました。
でも同級生なら誰もが分かるはず。Bが何故死んだのか。
事故なんかじゃなく、自殺だったって。」
そしてBの死から何日か経ち少し落ち着いてきた頃、クラスは再びざわついた。
「クラスメイトの一人がTwitterでBのアカウントを見つけたんです。
それは間違いなくB本人のアカウントでした。
アイコンのはBの暗い顔写真、名前はBのフルネーム、アカウントが作成された日付は自殺した日の前日だったんです。」
そこまで聞いて、私は
「もしかして、Twitterで遺書みたいな呟きをしていたとか?」
と尋ねました。
Aさんは首を横に振り
「いえ。そういった呟きは一つもありませんでした。
Bのアカウントは色々な名前を呟いているだけだったんです。」
「色々な名前?まさかいじめの犯人の?」
「特に誰かの名前という訳ではありません。
平仮名で『あつし』『はやと』とか『しおり』『まなみ』みたいに男女関係なく、ありふれた名前を一時間ごとに一つ自動投稿で呟く、いわゆるbotでした。
自分を含め同級生達にもさっぱり意味が分かりませんでしたよ。
何でBは死の前日にこんなアカウントを作るんだろうって。」
だが、それから十数年が経った頃。
「同級生の中で家庭を持つヤツがぽつぽつ出てきました。
その中のCという男が、自分の子供に名前をつける時にふとBの事が頭をよぎり、BのTwitterを見てしまったと言っていました。
そのせいで、せっかく考えた子供の名前を何度も変えるはめになった…とも。
Bが投稿している名前と同じ名前を付けてしまうと、何だか自分の子供や自分がBに見られている気分になってしまうからって。
それで結局Cは少し変わった名前を子供につけるしかなかったんですよ。
だってBのアカウント、『人の名前』で思いつく名前を大体呟いていますから。」
Aさんは続ける。
「Cと同じ事がその後も同級生の間で何人も起きています。
それでやっとBの考えが分かった気がしましたね。
Bは呪いをかけたんです。『子供に普通の名前をつけれない呪い』。
大袈裟かもしれませんが、僕はそう思っています。」
「もちろんBの事を忘れていたり、覚えてたってTwitterを見なければ良いだけの話なんですけどね。
でも自殺した同級生の事って忘れられます?
ましてや、いじめに加担していたヤツらなんて絶対忘れられないでしょう。
そうすると、どうしたってBのTwitter見ちゃうんですよ。
悪い事しか書いてないって分かってるのにネットで調べちゃう、あの感覚です。
僕は生涯結婚する気もないし、子供を作る気もないので平気ですけどね。
子供を授かった同級生たちは皆悩んでますよ。」
Bのアカウントは今でも一時間に一度、ありふれた名前をつぶやき続けているとか。
アイコンに使われているBの写真は満面の笑みだった。
著作権フリーの怖い話をするツイキャス、「禍話」シリーズの過去放送話を編集・再構成しています。
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