夏祭りの露店

俺は来年、二十歳になる。

俺に起こった事は今でも続いている。
それをこれから、話す。

俺に起こっている事の発端となった、俺が体験した、子供の頃の夏の話を語ろうと思う。

小学生に上がる前の、夏祭りの日の事だった。
沢山の屋台が並んでいた。
両親に手を引かれて、500円の綿あめと400円の焼きそばを買って貰う。
食べ物は1500円まで、と、上限を言われて、屋台を見て回ったものだ。
100円で売っているチョコバナナも美味しかった。

両親から食べ物を買って貰った後、500円を渡されて、好きなものを買ってこいと言われた。
そして、神社の境内で待ち合わせしているから、買ってきたら戻ってくるように言われた。
放任主義だったのだろう。
あるいは、子供のうちから、一人で色々体験させたかったのだろう。
どうせ人も多いからと、六歳の俺に、祭りの中を一人で歩く事を許可してくれたのだった。

屋台を見ていくと、仮面ライダーやウルトラマンのお面などが売られていたり、射的や金魚すくいなどがあった。
俺はその中から、限られた五百円で何を買おうか迷っていた。

お面は800円。手持ちは500円。買えそうになかった。
金魚すくいをしてみようと考えて、値段を見ると300円だった。
カップルらしい二人の男女が金魚すくいをやっていて、すぐにすくう道具の紙を破いているのが見えたので、俺は金魚すくいなんて難しいなあ、と思って、別の場所へと向かった。
値段を見てみると、射的も高いし、カラーひよこは両親からすぐ死ぬから絶対に買ってくるなよと言われていたので、眺めるだけになった。

歩いているうちに、的屋のある場所から離れていく。

両親との待ち合わせ場所は境内だ。
俺はどうしても、最後にお祭りらしいものを子供ながらにしたかったし、お祭りで売っているオモチャを買ってみたかったので、何かないかと探して回っていた。

すると、路地裏近くの辺りで明るい電球を灯して、何やら色々なものを売っているオモチャ屋さんがあった。
俺はそのオモチャ屋さんの売っているものを一通り見てみた。
不気味なキーホルダーに、ペンダント。
おまもりと描かれた石。それから何のキャラクターか分からない不気味なお面。
人間の腕の形をした蝋燭も売られていた。

「坊主、何が欲しいんだ」
テキヤさんは俺に訊ねてきた。
言われて、俺は500円玉を見せる。
「これで買えるもの」
「そうか、これで買えるものか。ワシの店はガキにいいもん買って欲しいからなあ。坊主、安くしとくから、気にいったのどれでも言ってみ。それを坊主の500円玉と交換な」
「うん。おじさん、ありがとう」
別の店では、お面は800円もした。

俺は得体の知れないお面を手にして、これが欲しいと強面の店員さんに言った。
「これかあ。坊主、イイ目しとるのう。そうじゃ、もう一つオマケに持ってけ」
俺はそう言われて、小さな十字架の形をした少し大きめのペンダントを手にして欲しいと言った。
店員のおじさんは、毎度あり、と言って俺から500円玉を受け取った。
最後に、おじさんが、お面は手放してもいいが、ペンダントの方は絶対に手放すな、と言っていたのは印象的だった。
そして、子供の頃は分からなかったが、おじさんの口元には、何処か悪意が含まれていたのを覚えている。

その後、俺は境内に待ち合わせをしてくれていた両親と会った。

「じゃあ。ユウタ。そろそろ、帰ろうか」
「今から晩御飯、作るの大変だからって、お父さんがね、奮発して沢山、焼きそばとかたこ焼き、とうもろこしとか買ってくれたのよ」
「母さんも疲れているだろうからなあ。帰って料理、大変だろうってな。ユウタじゃあ、晩御飯、これで大丈夫だよな?」
俺は破顔一笑したと思う。

夜空を見ると、何度も大きな花火が上がっていた。

あれから、数年が経過した。
俺は小学生になっていた。

俺はあの祭りの夜に購入した、謎のお面とペンダントも今も持っている。
あのテキヤが一体、何者だったのか俺には分からない。
テキヤなのだから、ヤクザに近い人種なのだろうかとも思うのだけど、また少し毛色が違うのだろうと思う。

ただ、あのお面は俺が小学校の頃に上がる頃にはお面の表情が少しずつ変化していったように思う。
俺は気のせいだと思ったが、そのままお面は部屋の中に飾り続けていた。
小学校も高学年になると、母が、あのお面を外してくれないか?
と、言ってきた。
何故か聞くと、どうも俺の顔に似てきているように言うのだ。
俺は何となく愛着のあるお面であったし、特に邪魔にもなっていない為に断った。

それから、一年後、小学校六年生の頃だろうか。
学校で出来た友達が家に遊びに来たのだった。
友達と一緒に、部屋の中にあるTVゲームをやっている最中、友達は飾られているお面を見て、とても気味が悪そうに言った。

「なんかさ。あのお面、ユウタの顔に似てへん?」
母と同じように、友達までそんな事を言う始末だ。
似てない、と俺は言ったが、確かに何処となく自分に似ているような気もした。
友人にも指摘されて以来、俺は不気味に思って、それを部屋の中にある押入れの奥にしまう事にした。
その時に、まだ小学校に上がる前に両親と行った、あの祭りでお面と一緒に買ったペンダントが出てきた。
六年くらい前に買ったものだ。
当然、普通なら、埃を被ったり、酸化して表面が黒ずんでいる筈だ。
それなのに、出てきたペンダントは、まるで新品同様のものだった。
手垢の一つも付いていて良い筈なのに……。

それからしばらくして、中学校に上がった頃に、父方の伯母さんが家に遊びに来る事になった。
今までは東京に住んでいたのだが、色々あって、俺の家族の住んでいる地方住まいになる事になったらしい。
伯母さんはたまに会って、お菓子をくれる人だった。
彼女と会うのは、二年ぶりくらいだろうか。

「ユウタ君ねえ。同級生の子、仲良いの? もうじき、足を大怪我するから気を付けろって言っておいて。大柄の子でスポーツが得意な子だと思うけど」
伯母さんはそんな事を告げた。
その後、俺の同級生のDが交通事故にあって、両脚に大怪我を負って、車椅子で生活するようになった。
その後、Dは学校に来ていない。
サッカー選手を目指していただけに、かなりのショックだった筈だ。

伯母さんとはたまに会うくらいだが、彼女いわく霊感のようなものがあるらしい。
伯母さんの職業は占い師をしており、銀座や六本木に店を持っていて、それなりに繁盛しているとの事だった。

そして、伯母さんが俺の家に来て、俺と両親に挨拶した後、俺の眼を見て、真剣な顔で告げた。

「ユウタ君。君の部屋、ちょっと見させてくれない?」
かなり真剣な顔だった。

そして、伯母さんは俺の部屋にくると、おもむろに押入れを開けてよいか訊ねた。
俺は頷く。

伯母さんは押入れを開けて、奥に入っている、例のお面とペンダントを見つけ出した。

「ユウタ君、この二つ、何処で手に入れた?」
「小学校に上がる前に、お祭りで…………」
それを聞いて、伯母さんは真剣な顔をした。

「ユウタ君、今、中学生だよね? 今まで、何かお父さん、お母さん、それからユウタ君。妹のキョウコちゃんに何か大きな事故とかあった?」
「何も、無いです…………。どうしたんですか?」
「こっちのお面の方はね。人間の皮が素材になっているよ…………」
それを言われて、俺は心の底から震えたと思う。

「こっちのペンダントもそう。ペンダントの方は、お面より危ない。詳しくは分からないけど、おばさんの師匠である先生に見せて貰っていいかな?」
「いいですけど………」

それから、伯母さんは、お面とペンダントを鞄の中に入れると、しばらく父と母と茶の間で談笑した後に帰っていった。

後日、伯母さんから電話で俺に連絡があった。
電話を取ると、伯母さんいわく、師匠である霊能者に見て貰った処、お面の方はやはり人間の皮を使っており、お面は“未だ生きている”のだそうだ。
おそらくは、生きたまま顔の皮を剥がされた人の皮で作られたお面なのだと。これは供養として焼却処分が望ましいとの事だった。

そして、問題なのは、ペンダントの方だった。

これは悪い気を溜め込み続けるペンダントだそうだ。
生きている間に、人は幸福も不幸も同時にやってくるが、不幸と言うものは小出しに起こるものらしい。
だが、小出しに起こる不幸を何かに封じ込めて、溜め込んでおくと、封じ込めていたものをある日、何かのきっかけで壊してしまうと、不幸が溢れ出して、とてつもない大きな不幸が起こるとの事だった。
そう言えば、ウチの家は病気らしい病気もした事が無いし、俺も中学生まで生きている上で、何かとても嫌な事にあったとかは無かった。

伯母さんはペンダントの方は、浄化すると言っていた。

それからしばらくして、伯母さんが自殺した。
首吊りだった。

何でも、父の話によると、部屋の中で首を括った死体で見つかったのだが、俺が預けていたペンダントを身に付けていたらしい。そして、そのペンダントは真ん中から大きくひび割れていたのだそうな。

伯母さんの師匠である霊能者も、不審死を遂げた。
全身、焼死体で見つかったとの事だった。
東京に店を構えていたが、その店が全焼し、伯母さんの師匠の霊能者さんは火に焙られたのだと言う。
警察は、伯母さんの死も、彼女の師匠の霊能者の死も、事件性は無く、それぞれ自殺と事故で片付けた。

そして、ペンダントとお面の方は再び、俺の手元に戻ってきた。
お面は、不気味に変質して、まるで人が死ぬ間際の断末魔のような苦悶の表情を浮かべていた。

俺はとても怖くなって、近くのお寺に持ち込んだ。
すると、お坊さんがお面を見て、とても自分の手に負えないからと、別の高名な人を紹介してきた。
俺は完全に呆然自失といった状態だった。
お坊さんいわく、お面の出自は分からない。
ただ、持ち主に災いをもたらすものだ、今まで持ち主である俺に何も起こっていないのは奇跡の状態なのだ、と。
そして、ペンダントの方は、元々、俺に振りかかる不幸だけでなく、お面の呪いも引き受けているのだと……。

お坊さんからは、絶対にペンダントは手放すな、と言われた。
そして、お面の方は絶対に手放せ、と……。
これは持ち主の魂をそのまま生き写して、そして、そのまま持ち主を殺すものだろう、と。
お坊さんいわく、俺の伯母さんと伯母さんの師匠である霊能者は、お面の怒りに触れて不審死を遂げたらしかった。

それから、一応の処は、何事も無く、過ごしている。
無事、高校受験、大学受験とも第一志望に受かり、両親とも大きな病気一つしていない。
妹は縁合って、マイナー誌でモデルのバイトをしている。

俺はすっかりお面とペンダントの事を忘れていたが、もうすぐ二十歳になる。
大学の友人からは、もうすぐ堂々と酒が飲めるな、と言われているが、俺はどうしても不安を拭いきれない。
たまに押入れの中にしまっている例のお面を見てみるのだが、年を重ねるごとに、すっかり俺の顔そのものになっていっている。

何となく、二十歳になったらヤバいんだろうなあ、という感覚がある。
ペンダントの方は所々がボロボロで壊れかけている。
後で調べたら、素材は純銀で出来ているらしい。だが、ひび割れて壊れる原因は分からない。
きっと、お面の呪いから俺や家族を守っているのだろう。

ちなみに、あのテキヤがいた祭りには何度も足を運んだが、あの店はただの一度も見つからなかった。
多分、売られていた他の商品も“呪いのアイテム”の類なのだろう。

少し長くなったが、俺の話は此処で終わりにしたい。
また何かあったら、続きを語るかもしれないし、語れるような状態に無いかもしれない。
ただ、伯母さんが亡くなってから、あの後、色々な霊能者に頼ったが、みな、このお面の呪いを解く事は出来ない。
どうにもならない。
人間の生皮で作られたお面だという事は分かるが、怨霊なのか?妖怪なのか?
正体さえも分からないと口を揃えて言う……。

高名で徳の高い霊能者さえ投げ出しているシロモノってわけだ。

みなさんも、怪しい店で、不用意に物を買ったりするのは止めた方がいい……。

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