禍話~第1夜より~
知り合いのおっさんは、良い人なんだけど酔うと歩けないくらい泥酔してしまう。
でも人間って不思議なもので、家までは帰れるらしい。
それまでの道すがらに色々な物を落としているけどね。
鍵とか財布とか。
それで、俺がいちいち呼ばれる。
「お~い、財布がないよ」って。
「またかよ、バカ!」って言いつつも、近所だから助けてあげてた。
その日は休みで、家で夜9時くらいにテレビ見てたら、そのおっさんから電話が来た。
大体予想がつく。
また酔っぱらってトラブル起こしたなって。
ただ、おっさんは人に絡んだりはしない。全部自損事故。
電話に出たらおっさんは「うい~」って言っていた。
「うい~、トイレから出られないんだよ」
(バカだなこいつ)と思った。
以前にもあった。
押せばいいドアをずっと引いてた、って話。
「どこにいるんですか?」
「外でおしっこしたくなっちゃってさー
そのへんの道でしたらダメだろー?」
(酔っぱらっててもそこは分かるんだ……)
「だからさー、公園のトイレに入ったんだ。そしたら出れなくなっちゃった!」
「どこの公園ですか?」
って聞いたらすぐ近所の公園だった。
三角錐みたいな形で、和式トイレが一個の男女共用トイレ。
「もう!絶対あれですよ。引いたらドア開きますよ」
「うい~!だめだ!違う!これ押すやつだよー。
びくともしないよー、助けてー助けてー」
「(うるせえな…)はいはい分かりました、今行きますから」
何だかんだお世話になっているおっさんだから、行く事にした。
近所だからパジャマのまま向かった。
おっさんと電話しながら歩き、公園に着いてトイレを見たら
「え?」
俺は混乱した。
三角錐のトイレから、確かにおっさんの声がしてる。
「うい~!おかしいよー!早くあけてくれぇー」
そのドアは確かに、中から押して開けるタイプだった。
おっさんは間違ってないんだよね。
じゃあ何に混乱したのかって?
おっさんが入ってるトイレのドアを、幼稚園児が両手でぐーっと押さえてるんだ。
おっさんは今も
「お~い!開かないよー開かないよー」って。
幼稚園児の力とおっさんの力、対抗できるわけないじゃないか。
なのにガッチリドアは閉まってる。
(え?何?夜の11時に幼稚園児が制服着た恰好でいる訳ないじゃないか。てか何してんのこの子?)
「お~い!開かないよー」っておっさんはずっと叫んでる。
トイレから聞こえてくる声と、携帯からの声ダブルで聞こえる。
「お~い!開かないよー助けてくれよー!」って。
「え、ああ、あ、はい…」
「なんでー?なんで開かないんだぁ?」なんて言って。
でも怖いじゃない。明らかに様子がおかしい幼稚園児がいるし。
どうしようかと思ってたら
「お~い、このトイレおかしいよー。このトイレひどいよー」
なんて言い出した。
「最悪だよー紙も無いし」
「公衆トイレだし、紙は無くてもおかしくないですよ」
「それに!落書きだらけなんだよー!幼稚園児くらいの」
「ちょ、ちょっと!なんで幼稚園児くらいって分かるんですか!?」
って思わず言った。
そしたら
「背丈が幼稚園児くらいのとこにあんだよー、チューリップとかさー、もう最悪だよー!
ここのトイレどうなってるんだよードア開かねえしよー」
おっさんと会話をしている間も、幼稚園児は微動だにしない。
もう怖くて怖くて、公園入れない。
おっさんは
「お~い、早く来てよー」
とか言ってるんだけど
「ちょ、ちょっと待ってくださいね。
ちょっと待ってください……本当に開かないんですか?」
なんて誤魔化してた。
おっさんがドアをガンガンガンガンやってる感じは伝わってくる。
でも開かない。
(あの幼稚園児がそんなに力強いわけないよな)
混乱しつつもちょっと理性を取り戻して(あの子の保護者はどうしてるんだ?)と思った。
それで公園内をふと見回したら、奥の薄暗いベンチに女性が座ってた。
しかもすごい嬉しそうに、その子の事を見ていた。
その瞬間もうゾワーって鳥肌たった。
あ、これ無理だって。
おっさんには申し訳ないけど携帯の電源切って家に帰った。
翌朝。
そのおっさんから電話があった。
「ごめーん!昨日オレ電話しちゃった?
起きたらさ、公園のトイレの中で。いい年して恥ずかしいわー」
なんて言って。
覚えてないみたいだったから、俺は何も言わなかった。
あの公園には絶対行かない。
著作権フリーの怖い話をするツイキャス、「禍話」シリーズの過去放送話を編集・再構成しています。
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