鉄、火、水

俺のおかんが酔っ払った時に話した与太話。

今年実家に帰ったとき、おかんが今まで体験してきた不思議な話をたくさん聞いた。
本当にただの与太話なのか、はたまた実話なのかは確認しようがないが、俺は聞いたとき年甲斐もなくワクワクしたんだ。

おかんの話はいつもブッ飛んではいるが妙に納得させられる話が多い。
親父曰く昔から不思議な女だったと言ってはいたが、俺たちには見えない、聞こえないものを普段から感じて生きているおかんの話は文字に起こして書く事が勿体無いくらいに雰囲気がある。

なるべくその雰囲気を壊さないように文字に起こしてみようと思う。
では、印象に残った話を何個かしてみるか。
ちなみに俺は2ch初心者だ。もし不愉快に感じたら言ってくれ。すぐ辞める。

おかんが学生時代に体験した話。

おかんは当時絵を描くのが好きで、絵かきサークルみたいなのに所属していた。
大学3年の春、新歓コンパがあったらしい。
もともと酒好きなおかんは周りのことは気にせず一人で飲んだくれていたそうだ。
するとどこからともなく1年生の女の子が隣に座ってきた。

酒は好きでも宴会の雰囲気が嫌いと言ったその女の子とはすぐに意気投合し、お互いに自己紹介なんかしながら飲んでいた。なんでもおかんと歳は同じで2浪して大学に入ってきたらしい。

この女の子を以下民子とする。

民子はウィスキーをロックで煽り、店員にじゃんじゃん酒を持ってこさせたそうだ。
流石に飲みすぎだとおかんが注意すると民子は
「私、水で死ぬんです」
なんて突拍子もないことを言い出した。
酔っているとはいえ初対面の人間にいきなりそんな暗い話を振ってくるなんてちょっと変わってるな何て思いながら、「何で?」と聞いてみた。

民子曰く、中学時代自分はいじめをしていたと言うのだ。
なんでもクラスに貧乏臭い見た目の女の子が転校してきたらしい。
最初はなんとも思っていなかったのだが、中学2年の2学期の中間試験でその転校生はものすごい好成績で、学年で一気に一位になった。

今までずっと一位だった民子は嫉妬した。
貧乏で汚い見た目、家も廃屋のようだったという。
そんな子が転校してきていきなり一位になって、急に周りの子に「天才」などとチヤホヤされ出したのが気に入らなかった。
そこから民子含む三人組でその転校生をいじめ始めた。

貧乏を馬鹿にし、縦笛を捨てたり、教科書に落書きをしたり。
まあありがちないじめ。
転校生は特に何か言ってくる訳でもなくただただ耐えていた。

そんなある日転校生の父親が死んだ。

彼女は2週間ほど学校を休んだが2週間後には、何事もなかったかのように戻ってきた。
何をされても、何があっても動じない彼女に民子達は余計に苛立ちを隠せなくなったらしい。
「父親が死んだのに全然悲しそうじゃない!この冷血人間!」などと罵倒し始めた。

そんな毎日が続き、冬休みに入る頃、民子の仲間の一人が転校生の父親の墓がある寺を見つけ出した。
どんなに苛めても手応えがなかったので、父親の墓を荒そう!なんてとんでもない計画を立て始めたのだ。
寺に行き墓を見つけ、バカだの死ねだのそんな文句を墓石に書きなぐったそうだ。

そこまで話を聞いたおかんは民子のことをひどく軽蔑したそうだ。
死人の墓に行き、文字どうり死者に鞭打つような行為に吐き気がした。
民子自身「子供だったとはいえとんでもないことをしてしまった」なんて言っていたらしいが、おかんは「あ、、この子もうダメだな」と思ったらしい。

その後も民子の話は続く。
一通り墓石に悪口を書いたあと、それだけでは飽き足らず、墓に石を投げ始めた。
その時、転校生が泣きながら大人のような太い声で「やめて!」と入ってきた。

転校生は「私はあんた達に何もした覚えはない。何でこんな仕打ちをするのか」みたいなことを大声で叫んでいたらしい。
初めての反発にイラついた民子達は転校生に掴みかかり、取っ組み合いの喧嘩になったそうだ。
掴みかかられた民子は勢いあまり、転校生を突き飛ばしてしまった。

転校生は墓石に頭をぶつけ気を失った。
民子達は「ヤバイ!!」と思い逃げようとしたとき、転校生がむくりと起き上がった。
すると転校生はひとりひとり指を差し
「お前は鉄で死ぬ」
「お前は火で死ぬ」
「お前は水で死ぬ」
と言いそのまま帰ってしまった。

呆気にとられていた民子達は言い知れぬ恐怖を感じたらしい。
それ以来民子達仲良し三人組はいじめをやめ、あまりつるまなくなったそうだ。
高校受験で忙しかったのもあるが、一緒にいると何か良くないことが起こりそうで何となく離れて行ったそうだ。

それから数年、三人は別々の高校へ進んでいた。

高校二年の夏突然その三人のうちの一人が半狂乱になり電話をしてきた。
なんでも鉄で死ぬと言われた子が原付に乗っているときトラックに跳ねられて亡くなったらしいのだ。

そんなの偶然だと民子は高を括っていたが、その数ヵ月後今度はこの前電話をかけてきた友人(火で死ぬと言われていた)が火事で亡くなったそうだ。
民子はだんだん怖くなり高校三年になる頃には完全な引きこもりになっていた。
しかしいつまでもそうしている訳にもいかず、渋々大学に入学したそうだ。

ここまでおかんに話し終わった民子はまた酒をじゃんじゃん頼み始めた。
おかんは正直あきれ果てていたし、それなりの報いがあって当然だと思っていた。
「水で死ぬ」のかはわからないがこの先何事もなく幸せな人生を歩むのは無理だろうと。

しかし民子は得意げに「私はお風呂も湯船にはつからないし、温泉にもいかない。海水浴だってプールだって行かない。
最近では水族館などとにかく水が有るところには絶対に行かないようにしてるから水で死ぬなんてありえない」
と言ってのけたのだ。

おかんはそれ以上言及はしなかったらしい。
俺は「で、結局民子はどうなったんだよ」と聞くとおかんは「死んだ」と一言。
なんでもその話をおかんにした数ヵ月後に死んだらしい。

死因は肝硬変。

「若いのに。不安を紛らわすためにお酒を飲みすぎたんだね。お母さんにその話した時はもう顔も黄色かったし、消化器系の病気特有の臭いがしてたもん。ある意味水で死んだのかね、、」

なんて言いながらおかんはウィスキーを飲み始めた。

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